用語集。
記事に出てくる言葉や、掘り下げた雑学の要点を、できるだけやさしく、正確にまとめます。由来・語源には諸説あるものも多いので、定説・有力説・俗説を区別して示します。
記事に出てくる言葉や、掘り下げた雑学の要点を、できるだけやさしく、正確にまとめます。由来・語源には諸説あるものも多いので、定説・有力説・俗説を区別して示します。
ALPHA-KA / GELATINIZATION — ツギノテ。FUN 編集部
アルファ化(糊化・こか)とは、生のでんぷんに水と熱を加えることで、粒がふくらんで崩れ、やわらかく消化しやすい状態に変わる現象です。生米が炊きあがってごはんになるのも、カップ麺がお湯で戻るのも、でんぷんがアルファ化するためです。
でんぷんは、生のままだと粒がぎゅっと詰まっていて、人間には消化しにくい状態です。そこへ水と熱が加わると、粒が水を吸ってふくらみ、内部の構造がほどけていきます。こうしてやわらかく、消化しやすくなった状態を「アルファ化した」と呼びます。加熱調理の多くは、要するにこのアルファ化を起こすための作業だといえます。
カップ麺の油揚げ麺は、製造の段階で一度ゆでてアルファ化させ、それを油で揚げて水分を飛ばし、乾いた状態で固めています。食べるときにお湯を注ぐと、抜けていた水分がスポンジ状の麺に一気に戻り、ふたたび食べられる状態になる——この「あらかじめアルファ化して乾かし、湯で戻す」という往復が、即席麺の背骨です。ごはんを乾かして携行食にした保存食も、同じ考え方でつくられています。
補足:アルファ化したでんぷんは、冷めると再び硬くなり消化しにくくなる。この変化を「老化(ベータ化)」と呼ぶ。ごはんが冷えて硬くなるのはこのため。
AMPERSAND — ツギノテ。FUN 編集部
アンパサンド(Ampersand)とは、記号「&」の英語名です。形の由来と名前の由来は、まったく別の場所・別の時代で生まれています。
形の起源は1世紀の古ローマ筆記体。ラテン語で「and」を意味するetのEとTを重ねた合字が、少しずつ崩れて現在の曲線になったとされます。一方、名前の起源はずっと新しく、19世紀の英語圏の教室です。
当時、アルファベットを暗唱する子どもたちは、Zの後ろに「&」をおまけの27番目として続けていました。単体で意味を持つ文字(IやAなど)は「〜 per se(それ自体で)〜」と唱える作法があり、「&」も「& per se and(&は、それ自体でandである)」と唱えることになっていた。これを毎日早口で繰り返すうちに音が崩れ、"ampersand"という一続きの語になりました。英語の一般語彙として定着したのは1837年までとされます(Merriam-Webster調べ)。
補足:記号の合字説は広く採られているが、細部の変遷は資料により表現に差がある。名前の定着時期(1837年頃)はMerriam-Websterの記述に基づく。
AMPHORA — ツギノテ。FUN 編集部
アンフォラ(amphora)とは、古代の地中海世界で広く使われた、両手(把手)の付いた細長い素焼きの壺。ワインやオリーブ油、穀物などを保存・運搬するための容器で、その一杯分は取引で量を数える単位としても使われました。
語の由来はギリシャ語で「両側から運ぶ(両手で提げる)」といった意味にさかのぼるとされます。下がすぼまった形は、船倉や地面に立てかけて安定させるのに都合がよく、地中海交易の主役として大量に作られました。中身を消費したあとの壺が積み重なってできた丘が、いまも遺跡として残っているほどです。
イタリアの学者ジョルジョ・スタビレが2000年に紹介した史料に、1536年、フィレンツェの商人フランチェスコ・ラピが書いた手紙があります。そこでは、アンフォラという量の単位を表す略号として @ が使われていました。メールでおなじみの記号が、じつは商いの容器を指していた——という話の出どころが、このアンフォラです。
補足:@ の起源には複数の説があり、アンフォラ説もそのうちの一つ。年代・解釈の細部は一次情報での確認を推奨する。
APOPHENIA — ツギノテ。FUN 編集部
アポフェニア(apophenia)とは、無関係またはランダムな物事のあいだに、意味のあるつながりやパターンを見いだすことです。「たまたま並んだ」を「理由があって並んだ」と受け取り、偶然に物語や因果関係を与える働きとも言えます。
言葉はドイツの精神科医クラウス・コンラートが1958年に使った Apophänie に由来します。もとは臨床的な文脈で用いられましたが、現在は日常の思い込み、迷信、偶然の一致、陰謀論などを説明する一般的な言葉としても広く使われます。アポフェニアを感じたことだけで、病気や異常を意味するわけではありません。
最後の例は、曖昧な視覚刺激に顔や物の形を見いだす「パレイドリア」です。アポフェニアは視覚に限らず、数字、出来事、言葉、原因と結果まで含む、より広い概念として扱われます。
| 言葉 | 何が起きるか | 例 |
|---|---|---|
| アポフェニア | 無関係なものに意味のある関係を見つける | 偶然の数字を運命の合図と感じる |
| パレイドリア | 曖昧な感覚刺激に既知の形や音を見つける | 雲に顔を見る |
| 確証バイアス | 自分の考えに合う情報を重く見て、反証を軽く見る | 当たった予言だけ覚える |
人間にとってパターン検出は、危険の予測や学習に欠かせない能力です。そのため「見落とす」より「一度つながりを疑う」方向へ働くことがあります。2008年にScience誌へ掲載された6実験では、統制感を失う条件に置かれた参加者ほど、ノイズの画像、株価情報、迷信、陰謀などに実在しないパターンを見いだしやすい結果が報告されました。一つの研究だけで日常のすべてを説明はできませんが、不確実な状況で意味を探したくなる心理を考える手がかりになります。
民間語源やバックロニムでは、音の一致や数字の並びが「証拠」のように見えることがあります。そんなときは、①説明が生まれる前の記録があるか、②外れた例も数えているか、③別の資料から同じ結論に着けるか、を確認します。面白い一致を否定するためではなく、「一致」と「原因」を分けるための確認です。
出典:Whitson & Galinsky「Lacking control increases illusory pattern perception」Science 322, 2008(6実験と用語上の定義)。アポフェニア、パレイドリア、確証バイアスの境界は研究・文脈により異なります。日常的なパターン認識だけを医療上の診断と結びつけないでください。
BACKRONYM — ツギノテ。FUN 編集部
バックロニム(Backronym)とは、先に語や名前があり、あとから各文字に合う言葉を当てはめて作られた、逆向きの頭字語のことです。
ふつうの頭字語(アクロニム)は、語句の頭文字を並べて短い語を作ります。NASAやレーザー(laser)がその例です。バックロニムは順序が反対で、意味のない語やすでにある名前を出発点に、「この文字はきっとこの単語の頭文字だろう」と後付けで説明を組み立てます。backward(後ろ向き)とacronym(頭字語)を掛け合わせた造語です。
語そのものの登場は1983年11月8日、ワシントン・ポスト紙のコラムニスト、ボブ・リービー氏が催していた造語コンテストの回とされます。応募したメレディス・G・ウィリアムズ氏による「bacronym」の説明は簡潔で、「アクロニムと同じ。ただし単語のほうが文字に合わせて選ばれている」というものでした。のちに綴りは backronym に落ち着き、辞書にも収録されています。
バックロニムの多くは由来の説明として誤りです。Wi-Fiに後付けされた「Wireless Fidelity」は代表例で、名付けを主導した本人が「意味はない」と明言しています。意味のない名前は落ち着きが悪いため、人はつい穴を埋めてしまう。バックロニムは、その埋め跡だと考えると分かりやすいと思います。
補足:初出(1983年のコンテスト)は複数の語源解説に共通して見られる説明に基づく。綴りは初期に bacronym / backronym が併存した。
CAROTENOID — ツギノテ。FUN 編集部
カロテノイドとは、植物や藻、一部の微生物が作り出す、黄色から赤色の天然色素の総称です。ニンジンやカボチャの色(βカロテン)から、フラミンゴやエビの赤(カンタキサンチン、アスタキサンチン)まで、身のまわりの「あたたかい色」の多くを担っています。
ポイントは、多くの動物がカロテノイドを自分では合成できないことです。だから食べ物から取り込むしかなく、結果として「食べたものの色素が体の色に出る」という現象が起きます。フラミンゴが藻や小さなエビを食べてピンクに染まり、エサに色素が足りないと色あせてしまうのは、まさにこの仕組みによるものです。エビやサケの身が赤いのも、もとをたどれば同じ色素が食物連鎖で受け渡された結果です。
カロテノイドには抗酸化作用をもつものが多く、体を守るはたらきや、光合成の補助色素としての役割も知られています。色をつけるためだけの物質ではありません。動物の世界では、鮮やかな体色が「よく食べている=健康」のサインとして相手選びに使われることもあり、色素は見た目と生き方の両方に効いています。
補足:カロテノイドは数百種類が知られ、性質や色は種類ごとに異なる。個々の生き物での代謝・沈着の詳細は生物種によって差があり、正確な説明は専門資料での確認を推奨する。
CHAIN LETTER — ツギノテ。FUN 編集部
チェーンレター(chain letter)とは、受け取った人に「同じ文面を写して、決まった人数へ決まった期限内に送れ」と求める手紙のことです。写しの命令を、文面自身が抱えているのが特徴です。
ふつうの手紙は、読まれた時点で役目が終わります。チェーンレターは終わりません。中身の半分が「この手紙をどう扱うか」の指示でできていて、受け取った人を次の書き手に変えることを目的にしています。慈善の寄付を集める型、幸運を約束する型、止めると不幸が来ると脅す型、金銭を要求する型、そして電子メールやSNSで回るチェーンメール。呼び名は違っても構造は同じです。
手で書き写す時代のチェーンレターには、複製・変異・淘汰という三つがそろっていました。写せば増える。写し間違いや思いつきの書き足しで少しずつ変わる。そして「回されやすい文面」だけが先へ進む。米国のダニエル・W・ヴァンアースデイルは数千世代ぶんの実物を集めて分類し、成功した変異の一部は意図的な工夫ではなく書き間違いとして現れた、と記録しています。
日本では1922年(大正11年)に「幸運の手紙」として広まったのが早い記録で、1970年秋からは「不幸の手紙」が流行しました。前者には差出人名と仲介者の名簿があり、後者では匿名になっています。1990年代後半には、誤字から生まれた「棒の手紙」という亜種が本家より多く出回りました。
補足:チェーンレターは、内容が脅迫や金銭要求に及ぶかどうかで法的な扱いが変わる。日本では1970年代当時、警察が「脅迫罪にはあたらず取り締まりようがない」とコメントした記録が新聞に残っている。受け取ったら回さずに処分する、が一貫した推奨対応。
MODAL ADVERB — ツギノテ。FUN 編集部
陳述副詞(ちんじゅつふくし)とは、下に決まった形の言い方を要求する副詞のことです。呼応の副詞、叙述副詞とも呼ばれます。「決して〜ない」「たぶん〜だろう」「もし〜なら」「まさか〜まい」のように、副詞と文末の述べ方がセットで働きます。
ふつうの副詞は、後ろが何であっても構いません。「ゆっくり歩く」「ゆっくり歩かない」、どちらも成立します。ところが一部の副詞は、後ろの形を指名します。「決して」と言い出した時点で、文末はほぼ「〜ない」に決まる。言い終える前から着地点が見えている、少し変わった品詞です。
やっかいなのは、この指名の関係が時代とともに動くことです。国語学者の浅野信は1933年の著書で、「さっぱり……だめだ」「よもや……まい」「てんで……ない」といった組を挙げつつ、これらが当時すでに崩れかけていると書いています。逆に「決して」は、明治以前には打ち消しを伴わない使い方もありました。組み合わせのほうが後から固まった例です。
副詞「全然」は、江戸後期に借用された当初、肯定にも否定にも付きました。それが昭和前期に打ち消しとの結びつきを強め、戦後にまた肯定を伴う形が現れます。呼応の相手が入れ替わる途中の姿を、私たちはリアルタイムで見ていることになります。文法書が「本来こう」と書きたくなるのは分かりますが、本来がどこを指すかは、切り取る時代によって変わります。
補足:呼応の副詞という枠の立て方や、どの語を含めるかには研究者ごとの差がある。昭和40年代の副詞研究は呼応に重心を置いており、その整理が当時の辞書記述にも影響したと指摘されている。
CRYPTOZOOLOGY — ツギノテ。FUN 編集部
未確認動物学(クリプトゾオロジー/Cryptozoology)とは、存在が確かな物証で裏づけられていない動物を対象にする分野のことです。
語はギリシャ語の kryptos(隠された)に動物学(zoology)を足した造語で、対象となる生きものは「クリプティッド(cryptid)」と呼ばれます。ネス湖の怪物、ビッグフット、ツチノコなどが代表例として挙げられます。学術的な分野としては認められておらず、疑似科学に分類されることが一般的です。
広まったのは1950年代で、ベルギーの動物学者ベルナール・ユーヴェルマンスと、スコットランド生まれの生物学者アイヴァン・T・サンダーソンの2人が中心にいます。ただし語そのものを最初に使ったのがどちらかについては説明が分かれており、サンダーソンが1940年代前半に用いていたとする説と、ユーヴェルマンスに帰する説があります。ユーヴェルマンス自身が後年、先にサンダーソンが使っていたと認めたとも伝えられます。諸説あり、というのが現状です。
この分野の題材は、肯定・否定のどちらの主張も一次資料が薄くなりがちです。ネス湖の「外科医の写真」のように、作り物だとする告白のほうにも細部の疑義が残る例があります。噂の中身を裁定するより、誰がいつ何を言ったかという来歴をたどるほうが、確かめられる範囲は広くなります。
補足:語の初出については当事者周辺の証言が一致していないため、本項では特定の説を採らず併記した。
DUMMY / PLACEHOLDER TEXT — ツギノテ。FUN 編集部
ダミーテキストとは、まだ原稿が入っていない段階で、レイアウトや書体の見え方を確かめるために流し込んでおく仮の文字列のことです。プレースホルダーテキストとも呼ばれます。
ふつう文章は読ませるために置きますが、この用途だけは逆です。目的は「読ませないこと」にあります。意味の通る文章を仮置きすると、見る側がつい内容を読んでしまい、字間・行間・段組み・書体の判断が狂う。だから、文字の形と分量だけが伝わって、意味は届かない状態がいちばん都合がいいわけです。
英語圏で長く使われてきたのが「Lorem ipsum dolor sit amet...」で始まるラテン語風の一段落です。参照元として広く使われている lipsum.com の説明によれば、1966年、レトラセット社の転写シート用に、ロンドンのセント・ブライド印刷図書館の司書ジェームズ・モズリーらが1914年刊のキケロ『善と悪の究極について』(H・ラッカム訳)から一部を取って崩したものとされています。ラテン語のように見えて読み下せないのは、意図してそう作られているためです。
日本語の組版では「あああああ」の繰り返し、「ダミーダミー」、いろは歌、意味をなさない漢字の並びなどが同じ役割を担います。仮名と漢字の混ざり具合で見た目の黒さが変わるので、本番原稿の性質に近い混ぜ方を選ぶのが実務上のコツとされます。
仮のものである以上、差し替え忘れという事故がついてまわります。パッケージや看板、企業サイトに Lorem ipsum が残ったまま公開される例は珍しくなく、ネット上でしばしば話題になります。読ませないための文字が、いちばん読まれてしまう瞬間です。
補足:よく使われる標準版は69語で、うち41語はキケロの原文と綴りが完全に一致し、残る28語も原文の語の語尾を削る・文字を足す・2語をつなぐという操作で作られている(ツギノテ。FUN編集部による集計)。冒頭の Lorem は単語ではなく、原文 dolorem が1914年版の34ページと36ページの改ページで分断された後半にあたる。また1987年に Aldus PageMaker へ収録された際の打ち間違いがそのまま残り、consectetuer(e が1つ多い)・nibh・zzril といった綴りが今も流通している。
EMOJI — ツギノテ。FUN 編集部
絵文字(emoji)とは、気持ちや物事を一つの絵として表す記号です。ローマ字表記の「emoji」は日本語の「絵(e)」+「文字(moji)」に由来し、英語の emotion(感情)や emoticon との類似は偶然にすぎません。
綴りが emotion に似ているため感情由来と誤解されがちですが、語源はあくまで「絵」と「文字」の合成です。日本の携帯電話で生まれ、その日本語の音がそのまま世界に輸出されました。国際的な文字コード(Unicode)に採り入れられたことで、機種や言語を越えて同じ記号を打てるようになっています。
よく混同されますが、emoticon は :-) や ;) のようにキーボードの記号を並べて顔に見立てたもので、こちらは英語の emotion に由来します。対して emoji は、はじめから一つの絵として用意された記号です。役割は近くても、作り方も出自も異なります。
スマートフォンの普及とともに英語圏でも一般化し、2015年にはオックスフォードの辞書が「今年の言葉」に 😂 を選びました。文字を選ぶ場で、文字でない絵が選ばれた出来事として知られます。
補足:「最初の絵文字」や初期の種類数・時期は、どの端末・時点を起点にするかで資料により差があり、諸説ある。ここでは呼び名の語源に絞って整理した。
EULERIAN CIRCUIT — ツギノテ。FUN 編集部
オイラー閉路とは、図形のすべての線をちょうど1回ずつ通って、出発点に戻ってくる道すじのことです。いわゆる一筆書きのうち、始めた場所で終わるもの。線を2回なぞってもいけないし、なぞり忘れてもいけません。
点と線でできた図(グラフ)で考えます。ある点から出ている線の本数を、その点の次数といいます。オイラー閉路があるかどうかは、この次数だけで決まります。条件は2つ。線が全体としてひとつながりであること、そしてすべての点の次数が偶数であること。ひとつでも奇数の点があれば、閉路はありません。
理屈は単純です。閉路のなかでは、ある点に入ったら必ずその点から出ていきます。入る線と出る線が必ず対になるので、その点に集まる線は2本ずつ消費されていく。だから偶数でなければ辻褄が合いません。奇数の点は、最後に「入ったきり出られない」場所になります。
戻ってこなくてよいなら条件はゆるみます。全部の線を1回ずつ通る一本道(オイラー路)は、次数が奇数の点がちょうど2つまでなら引けます。その2点が、道の始まりと終わりになります。奇数の点が4つ、6つと増えると、その半分の本数に分けるしかありません。
この条件を示したのはレオンハルト・オイラーで、1736年の論文「Solutio problematis ad geometriam situs pertinentis」に出てきます。プロイセンのケーニヒスベルクにかかる7つの橋を、それぞれ1回ずつ渡って元の場所に戻れるか、という街の言い伝えが題材でした。答えは「渡れない」。オイラーは橋の並び方を細かく調べる代わりに、陸地を点、橋を線に置き換えて次数だけを見ました。この論文はグラフ理論と位相幾何のいちばん最初の論文として扱われています。
ドミノで遊ぶときにも同じ判定が使えます。数字を点、牌を線と見れば、端の数を合わせて全部つないで輪にできるかどうかは、各数字が何枚の牌に登場するかで決まります。
補足:オイラーの論文は1735年8月にサンクトペテルブルクの学士院で報告され、『Commentarii academiae scientiarum Petropolitanae』第8巻(1736年)に収録された。オイラー自身は本文で十分条件の証明までは書いておらず、必要条件(奇数の点が3つ以上あれば不可能)の議論が中心で、厳密な証明は後年の数学者によって補われている。
FLUTE — ツギノテ。FUN 編集部
フルート(flute)とは、段ボールの中しん(中に挟まれた紙)の波形部分を指す呼び名です。つづりは楽器のフルートとまったく同じで、全国段ボール工業組合連合会も公式サイトでこの一致を紹介しています。
段ボールは、表と裏のライナ(平らな紙)で波形の中しんを挟んだ構造をしています。この波の部分がフルートで、横から見ると三角形が連なったトラス構造になり、紙が少なくても潰れにくい強さが生まれます。
フルートは段の高さで区別され、見分けの基準は30cmあたりの段の数です。全段連の一覧では、Aフルート(34±2段/段の高さ4.5〜4.8mm)、Bフルート(50±2段/2.5〜2.8mm)、Cフルート(40±2段/3.5〜3.8mm)、Eフルート(80以上/1.10〜1.15mm)、Fフルート(120以上/0.60〜0.75mm)、Gフルート(180以上/0.50〜0.55mm)の6種類が示されています。段の高さはあくまで波の高さで、実際の板の厚さにはライナの厚みが加算されます。
段の高さの順に並べるとA・C・B・E・F・Gとなり、記号のアルファベット順とは食い違います。「開発された順にアルファベットを割り当てたため」とする説明が業界の解説では広く見られますが、全段連の公式ページには理由の記載が見当たらず、確定した事実としては扱えません(諸説あり)。なお、JIS(日本産業規格)に規定されているのはA・B・Cの3種類で、E以下は規格の外にありながら個装・内装で広く使われています。
補足:段の高さと並んで「段繰率」(単位長さのライナに対する中しん原紙の使用率)も示され、Aが約1.6、Cが約1.5、Bが約1.4。波が高いほど中しんを長く使う。出典:全国段ボール工業組合連合会「段ボールの種類」「段ボールの構造(トラス構造)」。
FOLK ETYMOLOGY — ツギノテ。FUN 編集部
民間語源(folk etymology・民衆語源)とは、言葉の本当の由来とは別に、後からもっともらしく語られる語源のことです。音や字面の似た別の語と結びつけて説明されることが多く、覚えやすいぶん、よく広まります。
語源の話は、なぜか「格好いい説」ほど耳に残ります。異国の言葉が起源だとか、古代の由緒があるとか、物語性のある説明は伝わりやすい。ところが、伝わりやすさと正しさは別ものです。もっともらしい説には、たいてい文書などの裏づけが欠けていて、たどっていくと「そう聞いた」の連鎖にぶつかって止まります。
世界でいちばん通じる言葉「OK」の語源にも、ギリシャ語の olla kalla 説、北米先住民チョクトー語の okeh 説、フランス語の au quai 説などが名乗りを上げてきました。どれも印象的ですが、記録上たどれる初出は1839年ボストンの新聞で、all correct をわざと綴り間違えた oll korrect の略でした。派手な説の多くは、後から貼りついた民間語源だったわけです。
補足:民間語源のすべてが誤りとは限らず、似た音の語が実際に影響した例もある。語源は定説・有力説・俗説を分け、確定できないものは「諸説あり」と扱うのが安全。
GEOCARPY — ツギノテ。FUN 編集部
地下結実とは、植物が地面の下で果実を育てて熟させる性質のことです。根や地下茎が太る(芋)のとは別で、あくまで花のあとにできる果実そのものが土の中にある状態を指します。
いちばん身近な例がラッカセイです。花は地上に咲いて受粉し、そのあと子房の付け根から子房柄(英語では peg)が下へ伸びて地面に突き刺さります。土の中3〜5センチまで入ったところで先が水平を向き、そこでふくらんでさやになる。名前の「落花生」も、花が落ちたところに実が生じるという見立てから来ています。
地下で花を咲かせる性質(geoflory/地下開花)と地下結実をあわせると、少なくとも171種・89属・33科で観察されていると、英国キューガーデン(Royal Botanic Gardens, Kew)が2023年6月の発表で述べています。アフリカ原産のバンバラマメ(Vigna subterranea)や牧草のジオカルパ・クローバー(Trifolium subterraneum)も同じ性質を持ち、ヤブマメの仲間(Amphicarpaea)は1株で地上の実と地下の実を両方つけます(両性果性=amphicarpy)。2023年には、花も実もほぼ全部地下でつけるヤシ Pinanga subterranea がボルネオで新種記載されました。
なぜ地下なのかは、まだ議論が続いています。捕食者から隠れるためという古典的な予想(ダーウィンもこの見立てを示したと紹介されている)に対し、EUの研究プロジェクトTEE-OFFの成果概要では、野外では地下の果実のほうが食害率が高かったと報告されています。地下は無条件の安全地帯ではないようです。
補足:ジャガイモやサツマイモは地下にできるが、それぞれ茎・根が貯蔵器官として太ったもので、果実ではないため地下結実には当たらない。地下結実が進化した理由については複数の仮説があり、確定していない。
GHOST CHARACTER — ツギノテ。FUN 編集部
幽霊文字(ゆうれいもじ)とは、日本の文字コード規格「JIS基本漢字」に含まれる、典拠のたどれない漢字の総称です。読みも意味も由来も分からないのに、辞書や情報機器で扱える状態になっている点が特徴。辞書にだけ載って実際には使われない語を指す「幽霊語」をもじった呼び名です。
由来は1978年、当時の通商産業省が定めた最初の漢字コード規格「JIS C 6226」(のちのJIS X 0208)にあります。第1・第2水準あわせて6349字を選ぶ際、行政の地名資料や生命保険会社の人名資料などを寄せ集めましたが、規格には各字の出所が記されませんでした。後から点検すると、『大漢和辞典』や『康熙字典』にも載らない、読みも意味も不明な字が混じっていた。これらが幽霊文字と呼ばれるようになります。代表格は「妛」や「彁」です。
1997年の規格改訂で、芝野耕司・笹原宏之らが典拠資料を復元して全ページ照合し、電話帳のデータベースや30以上の字書まで当たりました。その結果、幽霊文字とされた字の多くは各地の地名・人名に実在すると判明します。それでも身元の分からない字が12字残り、狭い意味では、同じ形の先例すら見つからない「彁」ただ一字が本物の幽霊とされます。すでにUnicodeに採用されているため、互換性の都合で修正・削除は事実上できず、機器が扱えるよう後付けの読み(彁=カ・セイなど)が割り当てられました。
補足:代表例「妛」の成立経緯(版下の切り貼りの影を線と読み違えた誤植説)は委員会が示した推測であり、確定した事実ではない(諸説あり)。字数や範囲の細部は一次情報での確認を推奨する。
GRUE — ツギノテ。FUN 編集部
グルー(grue)とは、緑(green)と青(blue)を一つの言葉でまとめて表す色を指す、言語学の色彩研究での俗称です。二つの英単語を混ぜてつくられた造語で、緑と青を別々の色名に分けない言語を説明するときに使われます。
私たちは「緑と青は別の色」と当たり前に思っていますが、それは日本語(や英語)がその二つを分けて数えているからにすぎません。世界の言語を見わたすと、緑と青の境目に言葉を引かず、両方を一語で片づける言語はそれなりにあります。その「緑でも青でもある一語」を、研究者は便宜的に grue と呼びます。
グルーの好例としてよく挙げられるのが、日本語の「あお」です。空も海も「青」、いっぽうで青葉・青りんご・青菜・青信号のように、緑のものまで平気で「青」が受け持ちます。古い日本語で、語尾に「い」をつけて形容詞になれる色は赤・黒・白・青の四語だけで、この「青」が青から緑までを広く担当していた名残だとされています。緑という色名が独立して定着したのは、ずっと後のことです。
補足:色の切り分けは言語ごとに異なり、緑と青を分ける言語とグルー型の言語のどちらが「正しい」わけでもない。色域や語源の細部、grueという呼称の由来には諸説がある。
HARMONIC SERIES — ツギノテ。FUN 編集部
調和級数とは、1+2分の1+3分の1+4分の1+……と、整数の逆数を順に足していく足し算のことです。足す数はどんどん小さくなるのに、合計は止まらずに大きくなり続けます。
直感に反するのはここで、項が0へ近づいていくなら合計もどこかで頭打ちになりそうに思えます。ところが実際は、いくらでも大きくできる。この性質を発散といいます。14世紀の哲学者ニコル・オレームが示したとされる証明は、束ねて比べるだけの単純なものです。3分の1と4分の1を足すと2分の1以上、5分の1から8分の1までの4つを足すとやはり2分の1以上、次の8つも2分の1以上。2分の1を無限個足していく形に化けるので、上限は無い、という筋道になります。
もうひとつの顔が、伸び方の遅さです。最初のn項までの合計は、nの自然対数に0.5772(オイラー=マスケローニ定数)を足したあたりへ落ち着きます。対数なので、合計を1増やすには項数をおよそ2.72倍にしなければならない。合計が10を超えるのは12,367項め、20を超えるのは2億7,240万項めあたりです。「無限に大きくなる」と「実用の範囲ではほとんど伸びない」が、同じ一つの式に同居しています。
この二面性が目に見える形で出てくるのが、積み木やコインをテーブルの端からずらして重ねる遊びです。1段に1枚ずつ積んだときにはみ出せる長さは、積み木の長さを1とすると、ちょうどこの合計の半分になります。4枚で24分の25、つまり1枚ぶんを超える。31枚で2枚ぶん、227枚で3枚ぶん。理屈のうえでは何メートルでも出せるのに、10cmの積み木で1メートル出すには2億枚以上要る、という話になります。
補足:名前の「調和」は音楽に由来する。弦の長さを2分の1、3分の1、4分の1にすると倍音の関係になることから、この形の数列が調和数列と呼ばれ、その和が調和級数と呼ばれるようになった。なお、逆数の分母を2乗した1+4分の1+9分の1+……は発散せず、6分の円周率の2乗(約1.645)に収束する。逆数を足す級数がすべて発散するわけではない。
HEADLINESE — ツギノテ。FUN 編集部
ヘッドライニーズ(headlinese)とは、新聞の見出しの中でだけ使われる、圧縮された書き方のことです。決められた横幅に情報を収めるため、be動詞や冠詞を落とし、同じ意味なら文字数の少ない語を選びます。
見出しは、文章というより設計図に近い書き方をします。英語の見出しでは a・an・the がほとんど消え、is や are も省かれます。動詞も、consider ではなく eye、investigate ではなく probe、criticize ではなく slam というように、短くて絵の浮かぶ語が選ばれます。本文で同じ書き方をしたら読みにくくて仕方がないので、見出しの中だけの方言だと考えるのが早いです。
この文体には副作用があります。本文には存在しない短い言い換えが、見出しの中で新しく組み立てられてしまう。読者はそれを毎日目にするので、やがて元の長い言い方より覚えられます。見出しは記事を要約する役目だったはずが、語彙のほうを書き換えてしまうわけです。
日本語でも事情は同じで、助詞を落とす、送り仮名を詰める、長い組織名や制度名を略語に置き換える、といった処理が起きます。略語がそのまま定着し、元の正式名称のほうが読めなくなる例は珍しくありません。
補足:ヘッドライニーズは新聞社の「怠慢」ではなく、物理的な制約から生まれた技術である。活版の時代は1行に入る文字数が動かせず、見出し係は意味と字数を同時に合わせる専門職だった。ただし圧縮しすぎると読み違いを招くため、英語圏では二通りに読める見出しが定期的に笑いの種になっている。
IG NOBEL PRIZE — ツギノテ。FUN 編集部
イグノーベル賞(Ig Nobel Prize)とは、1991年に雑誌『Annals of Improbable Research』の編集者マーク・エイブラハムズが創設した賞です。選考基準は「まず人を笑わせ、そして考えさせる」研究であること。
ノーベル賞のパロディという体裁を取ってはいますが、悪ふざけや駄作を選んで嘲笑する賞ではありません。実在の、まじめな研究のなかから、聞いた瞬間に笑ってしまうが、聞き終える頃には妙に納得してしまう研究を選ぶ賞です。授賞式には実在のノーベル賞受賞者が登壇し、寸劇や紙飛行機を投げる恒例行事とともに進行します。
1991年の第1回は、マサチューセッツ工科大学(MIT)の博物館で開かれました。1995年に会場をハーバード大学へ移し、新型コロナウイルスの影響で対面開催が難しくなった2020年まで、毎年ハーバードで続けられています。
物理学者ロバート・A・J・マシューズは、バターを塗ったトーストがバター面から落ちる力学を解明した論文で、1996年の物理学賞を受けています。「机の高さでは半回転しかできない」という、日常のなかの地味な現象を、まじめな計算で裏づけた研究でした。
補足:本項の説明は、雑誌『Annals of Improbable Research』および授賞式の開催地・回数に関する一般的な記録に基づく。個別の受賞研究の詳細は、各回の公式発表を当たられたい。
IRIDOPHORE — ツギノテ。FUN 編集部
虹色素胞とは、魚・両生類・爬虫類などの皮膚にある色素細胞の一種で、グアニンの結晶を規則正しく並べ、その並び方で光を跳ね返して色を出す細胞です。持っている色素の色ではなく、結晶と結晶のすき間の広さで色が決まります。
ふつう「色がついている」と言うとき、私たちは色素を思い浮かべます。ニンジンのカロテノイドのように、その物質自体が特定の波長を吸って残りを返すしくみです。虹色素胞はこれとは別の原理で動きます。透明な結晶を層状に積み、光の干渉で特定の波長だけを強く反射する。シャボン玉の膜やタマムシの翅が角度で色を変えるのと同じ、構造色です。
構造色の色は結晶の周期で決まるので、周期を変えれば色も変わります。間隔が狭いと短い波長(青)が返り、広がると黄や赤の側へ寄っていきます。カメレオンはこの間隔を能動的に調整して体色を切り替えていることが、2015年にジュネーブ大学のチームが Nature Communications で報告しました。落ち着いた状態では格子が詰まって青緑を返し、興奮すると格子がゆるんで黄や赤に転じます。同じ研究では、より深い層に大きな結晶をもつ虹色素胞があり、こちらは近赤外線をよく反射することも示されています。
補足:虹色素胞の構造と機能は分類群によって差がある。上記のうち格子間隔の能動的な調整と2層構造についてはパンサーカメレオンで報告されたもので、すべてのカメレオン・すべての爬虫類に同じ仕組みがあると確認されているわけではない。
KIZON-FUTEKIKAKU — ツギノテ。FUN 編集部
既存不適格とは、建てたときの基準には合っていたのに、そのあとルールのほうが変わったせいで、いまの基準に合わなくなった建物や設備の状態のことです。違反ではありません。
建築のルールは事故が起きるたびに厳しくなります。ところが、変わるたびに日本中の建物を作り直すわけにはいきません。そこで建築基準法の第3条第2項が、法令が変わった時点ですでに建っているものには改正後の規定を適用しない、と定めています。適用されないので違反にならない。「違反建築物」とは別の枠が、はじめから用意されているわけです。
免除はずっと続くわけではありません。増築などをすると原則として現行の規定が遡って適用されます。どこまで遡らせるかの範囲は同法第86条の7が定めていて、一定規模以下の増築なら既存部分には及ばない、といった線引きがあります。放っておくかぎりは古いままでよく、いじった瞬間に新しい基準の側へ引き寄せられる、という設計です。
エレベーターやエスカレーターの定期検査では、判定の名前としてそのまま使われます。検査結果に「要是正(既存不適格)」と書かれた場合、日本エレベーター協会の説明によれば、それは「最新の法令の規定に適合していないことを示しており、遡及されるものではありません」という意味になります。たとえば2024年4月に義務化されたエスカレーターのハンドレール停止検出装置は、それ以前に着工した機械には義務が掛かりませんが、付いていなければ検査ではこの判定が付きます。
補足:似た言い方に「違反建築物」があるが、こちらは建てた時点で基準に反していたもので、扱いはまったく違う。既存不適格は、時間の経過そのものが原因で生まれる状態を指す。
KOHITSU — ツギノテ。FUN 編集部
硬筆の読み方は「こうひつ」です。鉛筆、ボールペン、万年筆など、先の硬い筆記具、またはそれらを使って文字を書く書写分野を指します。柔らかい穂先の筆を使う「毛筆」に対する言葉です。
「筆」という字が入っていますが、毛の筆に限りません。芯やペン先が硬い道具をまとめて硬筆と呼びます。「硬筆習字」「硬筆書写」と書かれている場合は、鉛筆やペンで、読みやすく整った文字を書く練習のことです。学校のノート、履歴書、手紙など、日常で手書きする場面の多くは硬筆にあたります。
| 区分 | 主な道具 | 特徴 |
|---|---|---|
| 硬筆 | 鉛筆、シャープペンシル、ボールペン、万年筆 | 線幅が比較的一定で、日常の実用的な筆記に向く |
| 毛筆 | 毛の筆、墨 | 穂先のしなりで、線の太さ・かすれ・強弱を大きく変えられる |
学校の書写では両者を別々に競わせるのではなく、毛筆で点画や文字の組み立てを大きく確かめ、その理解を日常の硬筆へ生かす関連指導が行われます。文部科学省は、硬筆による書写を小学校の全学年、毛筆を第3学年以上で扱うと説明しています。
重なる部分は多いものの、硬筆のほうが広い言葉です。ペン字はペンを使う文字練習を指すことが多い一方、硬筆には鉛筆を使う学校書写や硬筆展も含まれます。子どもの課題で「硬筆」とあれば、通常は指定された鉛筆やペンで書く課題だと考えればよいでしょう。
出典:文部科学省「学習指導要領 Q&A」(硬筆は小学校全学年、毛筆は第3学年以上で指導)/文部科学省「義務教育諸学校教科用図書検定基準」(硬筆の主な用具は鉛筆)。団体や課題により使用できる筆記具は異なるため、出品・受検時は個別要項をご確認ください。
KUSA — ツギノテ。FUN 編集部
草(くさ)とは、インターネット上で「笑い」を表すネットスラング。笑いを示す「w」を連ねた「wwww」が、地面から草が生えているように見えることから生まれた表現です。名詞的にも、動詞的な「草生える」の形でも使われます。
そのルーツをたどると、文章で笑いを示す記号は「(笑)」から始まります。これがローマ字環境で「(warai)」「(w」と省略され、やがて「w」一文字に。並べた「wwww」の見た目を草に見立てたのが「草」で、笑いの表現が「短くする」歴史の途中で、字形を風景に置き換えるという飛躍を経て生まれた点が特徴です。
笑いの量が多いときは「大草原」、思わず笑ってしまう状況を「草不可避」などと表現することもあります。「w」がくだけた口調寄りなのに対し、「草」は名詞として文中に収まりやすく、「そこは草」「完全に草」のように使われます。いずれもインフォーマルな場での表現で、フォーマルな文章では用いません。
補足:「w」の起源(海外製オンラインゲーム由来説)や「草」「草生える」の普及時期はいずれも定説ではなく諸説あり。細部は一次情報での確認を推奨する。
LANDOLT RING — ツギノテ。FUN 編集部
ランドルト環(Landolt ring)とは、視力検査で使う、一部が開いた「C」の形をした視標のことです。名前はアルファベットのCではなく、考案者である眼科医の名前に由来します。
「C」に見えますが、正体は文字ではありません。フランスで活躍した眼科医エドムント・ランドルト(Edmund Landolt、1846〜1926)が1888年に発表し、1909年にイタリア・ナポリで開かれた第11回国際眼科学会で国際的な標準視標として採用されました。世界で通じる「開いた輪」は、ここで公式に決まっています。
検査で答えるのは、輪の切れ目が開いている向き(上・下・左・右、ときに斜め)です。つまり測っているのは「文字を読めるか」ではなく、離れた2点を別々のものとして見分けられる最小の細かさ。輪が丸いのは、どの向きに切れ目を置いても条件を同じにできるからです。
視標全体を視角5分、切れ目や線の細部を視角1分としたとき、それを見分けられる眼を視力1.0とします(視角の1分は1度の60分の1)。検査距離5mでは、視角1分がおよそ1.454mm。日本のJISはこれを丸め、直径7.5mm・線幅1.5mm・切れ目1.5mm(外径:太さ:切れ目=5:1:1)と定めています。視力が高いほど当てるべき切れ目は細く、視力2.0なら0.5分=約0.75mmになります。
補足:ISO(国際規格)では直径7.272…mm・切れ目1.454…mmとされ、JISはこれを扱いやすく丸めた値。数値は資料により小数の丸めに幅がある。個人で作った視力表は差が出て正確に測れないため、あくまで目安とされる。
LIMINALITY — ツギノテ。FUN 編集部
リミナリティ(Liminality)とは、もう前の身分ではなく、まだ次の身分でもない、宙づりの時間を指す人類学の言葉です。
語源はラテン語の limen、つまり敷居です。部屋の内でも外でもない、またいでいる途中の場所。フランスで活動した民族学者アルノルト・ファン・ヘネップ(1873〜1957)が、1909年の『通過儀礼(Les rites de passage)』で、成人・結婚・葬送といった身分の移動にともなう儀礼を、分離・過渡・再統合の3段に整理しました。この真ん中の段が過渡=リミナルです。
高校を出た人は、もう高校生ではなく、まだ大学生でもありません。この「まだ何者でもない」時間がリミナリティにあたります。ファン・ヘネップの整理は長いあいだ注目されず、1960年代にヴィクター・ターナーが取り上げたことで人類学の外へ広がりました。英訳版が出たのは1960年です。
2019年5月、匿名掲示板に投稿された一枚の廊下の写真と短い作り話をきっかけに、無人の空間を写した画像が「リミナルスペース」と呼ばれるようになります。もとは人の状態を指す語だったものが、場所そのものを指す語として使われるようになった形です。マンデラ効果やアポフェニアと同じく、ネットの語彙として広まる過程で、元の学術的な定義とはずれた使われ方が定着しました。
補足:ファン・ヘネップの生没年と『通過儀礼』の刊行年(1909年)はブリタニカ百科事典、英訳版の刊行年(1960年)はシカゴ大学出版局の紹介ページに拠る。英語版Wikipedia「Liminal space (aesthetic)」は同書を1884年刊としているが、これは生年1873年と整合しない(2026年8月17日閲覧時点の記述)。日本語で「リミナリティ」の訳語がいつから使われたかは確認できていない。
MANDELA EFFECT — ツギノテ。FUN 編集部
マンデラ効果とは、多くの人が、事実と異なる同じ内容の記憶を共有している状態を指す通称です。個人の思い違いではなく、思い違いの中身まで揃っている点が特徴とされます。
名前の由来は、南アフリカの元大統領ネルソン・マンデラ氏です。2009年、米国アトランタで開かれたポップカルチャーの大型イベント「ドラゴンコン」の会場で、超常現象を扱う書き手のフィオナ・ブルーム氏が「マンデラは1980年代に獄中で亡くなった」という自分の記憶を話したところ、周囲の複数人が同じ記憶を持っていました。ブルーム氏はこれに名前をつけ、2010年に専用サイトを開設して同種の事例を集めています。マンデラ氏が実際に亡くなったのは2013年12月5日で、1990年に釈放され1994年に大統領へ就任しています。
この語は学術用語として作られたものではなく、出発点は超常現象を扱う場でした。そのため「並行世界の書き換えの証拠」といった説明とともに広まった経緯があります。一方で、事実と異なる記憶が形成される現象自体は虚偽記憶(false memory)として長く研究されており、集団で内容が一致する点をどう説明するかが論点になります。
2022年、シカゴ大学のディーパスリ・プラサド氏とウィルマ・ベインブリッジ氏が、査読誌 Psychological Science に視覚的マンデラ効果の実験を発表しました。よく知られたロゴ・キャラクター40画像について、正しい版と細部を作りかえた2版を1組で提示し、正しいものを選ばせる方式です(実験1・100人)。多数派が本物を外し、しかも同一の誤答へ集中した画像は7枚でした。C-3PO、フルーツ・オブ・ザ・ルームのロゴ、おさるのジョージ、モノポリーのおじさん、ピカチュウ、フォルクスワーゲンのロゴ、ウォーリーが該当します。続く実験では視覚的な注意の差や日常で目にする画像の偏りが検討され、記憶から描かせる課題(実験4・50人)でも同じ誤りが自発的に現れました。2024年にはクリアラー・シンキングの追試プロジェクトが389人で実験1をやり直し、再現に成功しています(条件を満たしたのは8画像)。
補足:なぜその画像で誤りが揃うのかは解明されていない。「ピカチュウの耳の黒が尻尾へ移った」「モノポリーのおじさんが片眼鏡の別キャラクターと混ざった」といった説明は解説記事で紹介されるが、実験で検証された結論ではない(諸説あり)。出典:Prasad & Bainbridge (2022) Psychological Science 33(12)/Clearer Thinking Replication Project 報告書 #8(2024)/Britannica「Mandela effect」/Know Your Meme「The Mandela Effect」。
MAP — ツギノテ。FUN 編集部
ガス置換包装とは、密封した包装の中の空気を追い出し、代わりに窒素や二酸化炭素などの気体に入れ替えて閉じる包装技術です。英語の Modified Atmosphere Packaging から、業界ではMAPとも呼ばれます。
ふつうの包装は、中身と一緒に空気も閉じ込めます。乾いた空気の体積比は窒素が約78%、酸素が約21%。この2割の酸素が、油脂の酸化や微生物の繁殖を進めてしまいます。そこで、封をする前に空気を吸い出し、反応しにくい気体で満たしてから閉じる。日持ちを延ばすためのひと手間です。
窒素はもともと空気の8割を占めるので、入れ替える作業は一見むだに見えます。ただ目的は窒素を入れること自体ではなく、酸素の割合を下げること。何もしてくれない気体で場所を埋めることに意味があります。何を入れるかは食品によって変わり、窒素・二酸化炭素・酸素を最適な比率で混ぜる場合もあります。
ポテトチップスの袋のように、はっきり膨らませてあるものもあります。これは酸素対策とは別の役目で、気体のクッションとして中身を割れにくくするためです。カルビーは窒素を入れる理由を「①味や臭いを守り、おいしさを保つ ②窒素で袋を膨らませることで、壊れやすいポテトチップスを守る」の2つとして公開しています。真空に近づけて潰してしまう包装が向かない食品では、膨らみそのものが保護装備になります。
ガス置換包装が使われているのは、ポテトチップスやスナック菓子だけではありません。カット野菜やサラダ、総菜、コーヒー、チーズなど、スーパーの棚のかなりの範囲に及びます。中身が減ったように見える膨らみは、たいてい中身を届けるための設計です。
補足:日本産業規格(JIS)にも「ガス置換包装」の定義があり、容器から空気を排気して不活性ガスで置換し密封する包装として説明されている。出典:株式会社ガスレビュー「産業ガス業界辞典 ガス置換包装」/カルビー株式会社「よくいただくご質問」/株式会社湖池屋「お客様センター」。
METATOOL USE — ツギノテ。FUN 編集部
メタ道具使用とは、道具を「別の道具を手に入れるため」に使うことです。餌などの報酬を直接取りにいくのではなく、いったん道具を取るために道具を使う——道具の入れ子。目先の一手ではなく、その先を見た行動とされます。
ただの道具使用(棒で餌を引き寄せる、など)は多くの動物に見られますが、メタ道具使用はもう一段複雑です。たとえば「短い棒では餌に届かない。だが短い棒なら、離れた場所にある石は取れる。その石を仕掛けに入れれば、長い棒が出てくる。長い棒なら餌に届く」——という具合に、道具を段階的に乗り継ぐ必要があります。手元の道具が目的そのものではなく、次の手段への足がかりになっている点がポイントです。
代表例はニューカレドニアガラスです。研究では、複数の仕掛けを正しい順番でたどらないと餌にたどり着けない多段パズルを、初見に近い状態で解いてみせた個体が報告されています。こうした行動は、単なる試行錯誤だけでは説明しにくく、手順をある程度見通して組み立てている可能性を示すとされ、動物の高度な問題解決を測る指標のひとつになっています。
補足:観察された行動をどこまで「計画」と解釈できるかは慎重な議論があり、試行錯誤や学習の寄与を含め評価は一様ではない。詳細は各研究の原典での確認を推奨する。
MINNAERT RESONANCE — ツギノテ。FUN 編集部
ミナート共鳴とは、水の中にできた空気の泡が、自分の大きさで決まった振動数で伸び縮みして音を出す現象のことです。泡は空気なので縮みやすく、まわりの水は重い。この「やわらかいバネ(空気)と重り(水)」の組み合わせが、決まった速さで揺れます。
名前の由来は、オランダの天文学者マルセル・ミナート(Marcel Minnaert, 1893〜1970)。1933年、『London, Edinburgh, and Dublin Philosophical Magazine and Journal of Science』第16巻235ページに載せた論文「On musical air bubbles and the sounds of running water」で、流れる水や落ちる水滴の音は泡の振動によるものだと指摘し、その振動数を求める式を導きました。式の要点は、振動数は泡の直径に反比例するという一点です。小さい泡は高く、大きい泡は低く鳴る。
この見立ては、コップに水を注ぐ音、川のせせらぎ、雨が水面を打つ音といった「水の音」の広い範囲に当てはまります。逆に言えば、私たちが水の音だと思って聞いているものの多くは、水そのものの音ではなく水に巻き込まれた空気の音だということになります。注ぎ口の音が途中から高くなるのも、生まれる泡が小さくなっていくからだと説明できます。
1989年、H・C・パンフリーらは高速カメラを使い、水滴が水面に落ちたときの音源が「閉じ込められた泡」であることを確かめました。2018年にはケンブリッジ大学のサミュエル・フィリップス、アヌラグ・アガーワル、ピーター・ジョーダンが泡の振動そのものを直接観測し、空気中に聞こえる「ポチャン」も、その泡が空洞の底の水面を振動させることで生じていると示しています。同じ実験では、映像から測った泡の大きさをミナートの式に入れた理論値7.9キロヘルツに対し、実測は8.6キロヘルツでした。
補足:ミナートの式は泡が真球であることを前提にしているため、実際の泡の形のゆがみや、容器の壁との相互作用によって実測値とはずれが出る。上記2018年の実験では約10%のずれが報告され、その要因も併せて説明されている。ミナート本人は太陽の光球や大気の研究で知られる天文学者で、この論文は本業から外れた仕事にあたる。
MONME — ツギノテ。FUN 編集部
匁(もんめ)とは、尺貫法における重さの単位です。1匁=3.75グラム。1貫の1000分の1にあたります。
江戸時代の日本では、長さの「尺」と重さの「貫」を基本とする単位系が使われていました。匁はその重さ側の日常単位で、もとは中国から伝わった銭貨の「1文銭の目方」を表す言葉だったとされます。1891年(明治24年)の度量衡法では、1貫をキログラム原器の質量の4分の15倍=3.75kgと定めたため、1匁も3.75グラムという値に固定されました。
1951年(昭和26年)制定の計量法で、尺貫法を取引や証明に用いることは禁じられました。ただし匁には例外があり、真珠の質量の計量に限って今も使えます。真珠の売買では国際的にも「momme」がそのまま通用し、日本語の単位が世界基準として残っている珍しい例になっています。
現行の五円黄銅貨の量目は3.75グラムで、1匁と同じ数字です。1949年(昭和24年)の改鋳で穴あきになったときに、それまでの4.00グラムから3.75グラムへ変わりました。記録に残る改鋳の理由は、当時の1円黄銅貨と紛らわしかったこと、および材料費の節約とされ、「1匁にそろえるため」とする公的な説明は確認できていません。数字の一致は事実、意図は不明、という扱いが正確です。
補足:関連する尺貫法の重さは、1貫=3.75kg(1000匁)、1斤=600g(160匁)。「百貫デブ」の百貫は375kgで、実在しない誇張表現。出典:nippon.com「5円玉は1匁(もんめ)って知ってた?:現代にも残る尺貫法」(参考文献:石川英輔『ニッポンのサイズ』淡交社)/Wikipedia「貫」「匁」「五円硬貨」/財務省「通常貨幣一覧」。
MUSCLE MEMORY — ツギノテ。FUN 編集部
マッスルメモリとは、同じ動作を何度も繰り返すことで、意識しなくても体——とくに指——が手順を覚えていく現象です。心理学では「手続き記憶」と呼ばれる運動学習の一種にあたります。電卓のテンキーやキーボードを、手元を見ずに打てるのはこの働きによります。
直訳すると「筋肉の記憶」ですが、実際に記憶しているのは筋肉そのものではなく、脳と神経の回路です。繰り返し行った動作は、いちいち考えなくても自動で再生できる「型」として定着します。自転車の乗り方を体が覚えているのと同じ理屈で、一度身につくと、しばらく離れても比較的よみがえりやすいのが特徴です。
この性質は便利な反面、道具のデザインを縛る力にもなります。テンキーが「7・8・9が上」の並びを何十年も保っているのは、使いやすさが証明されているというより、大勢の指がその配列を覚えてしまっているから。仮に「もっと合理的だ」という並びを新しく用意しても、いったん染みついた動作を上書きするコストは大きく、現場は元の配列に戻りたがります。合理より慣れが勝つ、道具が更新されにくい典型的な理由の一つです。
補足:「マッスルメモリ」は運動を素早く正確に行えるようになる学習全般を指す通俗的な言い方で、筋トレ分野では「一度鍛えた筋肉が衰えても再び付きやすい」別の意味でも使われる。ここでは動作学習(手続き記憶)の意味で扱う。
NAMING RIGHTS — ツギノテ。FUN 編集部
ネーミングライツ(naming rights・命名権)とは、施設や設備に、対価と引き換えに企業名・商品名などを付ける権利のことです。スタジアムやホール、駅などで広く導入されています。
もともとはスポーツ施設の運営費をまかなう手段として広まった仕組みで、企業は名前を出せる代わりに使用料を払い、施設側は安定した収入を得る、という取り引きです。呼び名がそのまま広告になるため、地図やアナウンス、案内板のあちこちに社名が載ることになります。
駅でも、最寄りの企業名や施設名を駅名に組み込む例が増えました。会社名や施設名は地名より長くなりがちで、しかも組織の統合や移転で変わります。その結果、駅の名前が契約のたびに伸びたり縮んだりする。「日本一長い駅名」がしばしば入れ替わるのは、地名そのものというより、この命名権による改称が効いているためです。
補足:契約期間や金額、更新条件は施設・事業者ごとに異なる。個別の事例は各事業者の発表で確認を推奨する。
NYOBO-KOTOBA — ツギノテ。FUN 編集部
女房詞(にょうぼうことば)とは、室町時代初期ごろから宮中や院に仕えた女性の使用人「女房」たちが使い始めた、主に衣食住に関する隠語的な言葉のことです。「女房言葉」とも書きます。
ものごとを直接言わずに済ませる、上品で婉曲な言い換えの語彙です。閉じた職場の内輪言葉として生まれましたが、のちに将軍家に仕える女性から武家・町家の女性へ、さらに男性へと広まり、多くが現代の日常語として定着しました。応永27年(1420年)ごろ成立の『海人藻芥(あまのもくず)』などの文献に、当時の記録が残っています。
一つは頭に「お」を付ける型です。田楽を「おでん」、水を「おひや」、腹を「おなか」、豆腐を「おかべ」、菜を「おかず」。丁寧の「お」を冠しつつ、後ろを削ったり見立てたりします。もう一つは、語の頭の一音だけ残して「文字(もじ)」を足す型で、「文字詞(もじことば)」と呼ばれます。杓子が「しゃもじ」、髪が「かもじ」、鮨が「すもじ」。空腹の古語「ひだるし」を言い換えた「ひ文字」は、江戸時代に形容詞化して「ひもじい」になったとされます。
女房詞の面白さは、婉曲だったはずの言い換えが標準の座に着き、元の語のほうが消えたり格下げされたりした点にあります。「しゃもじ」は残り、「杓子」は慣用句に退きました。頭の音だけ残す省略と、ぼかしの言い換えという製法は、現代の若者言葉ともよく似ています。
補足:定義は精選版 日本国語大辞典・デジタル大辞泉「女房詞」(コトバンク)等に基づく。個別の語の由来(おかべ=壁への見立て、ひもじい=ひ文字の形容詞化など)は辞書・語源解説の説明によるもので、語源には諸説がある。
OCTOTHORPE — ツギノテ。FUN 編集部
オクトソープ(Octothorpe)とは、記号「#」に付けられた呼び名の一つです。名前が多すぎたので、新しい名前を足した結果生まれました。
1960年代、米国のベル研究所は電話と計算機をつなぐ方法を探しており、その過程でプッシュ式のダイヤル(トーン式)が生まれます。数字10個を縦4段・横3列に並べるといちばん下の段が2つ余り、そこへ * と # が入りました。* は「アスタリスク」ではなく「スター」と呼ぶことに決まります。一方の # は、当時すでにナンバーサイン、パウンド、ハッシュなど複数の呼び名が流通しており、電話で読み上げても相手に通じる保証がありませんでした。そこで紛れのない新しい名前として作られたのが、この語だとされています。
前半の octo が8を指し、記号の端から出ている線の本数と一致することは争われていません。問題は後半です。語誌研究者マイケル・クィニオンによれば、由来の説は少なくとも5つあります。①18世紀の英国の慈善家ジェームズ・エドワード・オグルソープの姓から(アメリカン・ヘリテージ辞典)。②古ノルド語で村を意味する thorp から、記号を「8つの畑に囲まれた村」に見立てた洒落。③1995年にベル研究所のラルフ・カールセンが残したメモにある、技師ドン・マクファーソンが陸上選手ジム・ソープにちなんで名付けたとする話。④2006年にダグラス・A・カーが書いた、もとは octatherp というジョーク語だったとする話。⑤そもそも octothorn・octalthorp・octothorp・octatherp と綴りが揺れているという指摘。
クィニオンは、これらの話に同時代の裏づけがないと書いています。活字での初出は1974年で、その文面自体が、当時のベル電話システムの中でさえこの語が広く知られていなかったことを示しています。国際規格の文書に言及されたことで半ば公式の地位は得たものの、日常の呼び名としては定着しませんでした。作った当人たちも普段は使わなかったと伝えられています。なお1989年には、国際標準化機関の一つが#の公式名を「スクエア」と定めており、英国のBTは今もその語で案内しています。名前を一つに絞る試みは、少なくとも二度行われたことになります。
補足:記号「#」自体の形の由来は、ラテン語 libra pondo(重さのポンド)の略号 lb に横線を渡した ℔ が崩れたものとする説が有力だが、その過程を直接示す資料は乏しいとする異論もある。音楽のシャープ「♯」は別の文字で、Unicode では # が U+0023 NUMBER SIGN、♯ が U+266F MUSIC SHARP SIGN と区別されている。日本語の「井桁(いげた)」は井戸のまわりに組む枠の形に由来する呼び名。
OSTENSION — ツギノテ。FUN 編集部
オステンション(ostension)とは、既にある言い伝えを裏づけるために作られた偽の証拠が、その言い伝えの受け取られ方を変えてしまう現象を指す民俗学の言葉です。
ややこしいのは、証拠が偽物だと分かったあとも効果が残る点にあります。写真が合成だと判明しても、それを一度見た人の頭のなかでは、その伝説の姿かたちが更新されています。証拠は取り下げられ、伝説だけが伸びる。UFOの写真、ネス湖の怪物の写真、心霊写真は、おおむねこの枠で説明されます。
もうひとつの特徴が、作り手の動機です。偽物を作る理由は「人を騙したい」だけではなく、本人が信じているから証拠を作るという場合があります。1917年から1920年にかけて英国ヨークシャーのコティングリーで撮影された妖精の写真がその例に挙げられます。撮った少女の一人は生涯にわたり、妖精は本当に見たのであって、写真はその記念に作ったものだと語り続けました。この写真をシャーロック・ホームズの作者が本物と判定したことも、あわせてよく引かれます。
1991年、英国で畑の円を作っていた二人組が名乗り出て、道具まで明かしましたが、円の報告はその後も続いています。ネス湖の「外科医の写真」も同様で、作り物だと明かされたあとに、その写真のほうが怪物の姿として定着しました。噂の中身の真偽を決めるより、誰がいつ何を持ち出したかを追うほうが、確かめられる範囲は広くなります。
補足:本項の説明は、Smithsonian Magazine 2009年12月15日掲載の解説(Rob Irving・Peter Brookesmith)における用法に依拠した。民俗学のなかでは、伝説を演じる行為そのものを指す用法や、偽の証拠を作る類型を別の名前で呼び分ける整理もあり、本項はその全体を扱っていない。
PATH DEPENDENCE — ツギノテ。FUN 編集部
経路依存とは、過去に起きた小さな偶然や初期の選択がそのまま固定され、後からより良い選択肢が現れても乗り換えられなくなる現象のことです。「今ある形は、最適だから残ったとは限らない」という見方を支える考え方として使われます。
広く知られるきっかけになったのは、経済学者ポール・A・デヴィッドが1985年に発表した論文「Clio and the Economics of QWERTY」です。タイトルどおり、題材はキーボードのQWERTY配列でした。19世紀のタイプライターの試行錯誤の末にたまたま定着した並びが、100年以上たっても更新されない。その理由を、技術の優劣ではなく歴史の積み重ねで説明したわけです。
この見立てには有力な反論があります。スタン・リーボウィッツとスティーヴン・マーゴリスが1990年に書いた「The Fable of the Keys」は、代替配列がQWERTYより明確に優れているという厳密な証拠はそもそも乏しいと指摘しました。つまり「良いものに乗り換えられない」のではなく、「乗り換えるほどの差がない」だけではないか、という反論です。どちらが正しいかは決着していません。
使い方としては、規格・制度・レイアウト・商習慣など「なぜこの形なのか誰も説明できないが、誰も変えない」ものを語るときに便利な言葉です。ただし便利な言葉ほど、当てはめた瞬間に考えるのをやめてしまう危険もあります。
補足:経路依存という概念自体はデヴィッド以前から技術史・進化経済学の文脈で議論されており、W・ブライアン・アーサーによる収穫逓増の研究などと合わせて語られることが多い。QWERTYはあくまで「もっとも有名な例」であって、概念の出発点そのものではない。
PIGEONHOLE PRINCIPLE — ツギノテ。FUN 編集部
鳩の巣原理とは、巣が10個しかないところに鳩が11羽入れば、どこかの巣には2羽以上いる、という言い切りのことです。当たり前に聞こえますが、当たり前なのが取り柄です。どの巣にいるかを一羽ずつ確かめなくても、「2羽入っている巣が必ずある」とだけは言えてしまいます。
言い方を整えると、こうなります。n個の入れ物にn+1個以上のものを入れると、少なくとも1つの入れ物には2個以上が入る。入れ物を引き出しに見立てて抽斗原理、あるいは19世紀の数学者ディリクレの名からディリクレの箱入れ原理とも呼ばれます。
この原理の使いどころは、「どこに」ではなく「あるかないか」だけを問われている場面です。中身の配り方は無数にありますが、どう配っても逃げ場がない。だから場合分けを全部並べずに結論が出ます。組み合わせ論の教科書で、最初のほうに出てくる理由がこれです。
一般形もあります。n個の入れ物にm個のものを入れるなら、どれかの入れ物には m÷n 以上(端数は切り上げ)が入っている。25個のものを4つの箱に配れば、どこかの箱には必ず7個以上ある、という具合です。
色柄の違う靴下が10種類、それぞれ2枚ずつ、合わせて20枚が引き出しで混ざっているとします。見ないで引いて、同じ種類が2枚そろうまでに最悪何枚引くことになるか。答えは11枚です。種類が10しかないので、11枚あれば必ずどこかが重なる。
逆に10枚で止まると、「10種類から1枚ずつ」という配り方があり得るので、そろわない可能性が残ります。この原理は最悪の場合だけを保証するので、平均が知りたいときには使えません。そこは別に数える必要があります。
補足:英語の pigeonhole は伝書鳩の巣箱と、書類を仕分ける仕切り棚の両方を指す。ディリクレは1834年に Schubfachprinzip(引き出しの原理)という語で用いており、鳩の比喩が定着した経緯については諸説あり、本紙では初出を確認できていない。
RETRONYM — ツギノテ。FUN 編集部
レトロニム(Retronym)とは、後から現れたものと区別する必要が出たために、元からあったほうへ新しく付けられる呼び名のことです。
ラテン語の retro-(後ろへ)と、ギリシャ語由来の -onym(名前)を合わせた造語です。電話が線につながっているだけだったころ、それは「電話」でした。携帯電話が広まって初めて「固定電話」という言い方が要るようになります。同じ形で、エレキギターが現れたあとに「アコースティックギター」、人工芝のあとに「天然芝」、デジタル時計のあとに「アナログ時計」が生まれました。米メリアム・ウェブスターの辞書は、アナログ時計・フィルムカメラ・かたつむり便(snail mail)を例に挙げています。
活字での最も古い用例は1980年7月27日、ニューヨーク・タイムズ・マガジンに載ったウィリアム・サファイアのコラム「On Language」です。造語したのは言語学者ではなく、米国の公共ラジオNPRの社長だったフランク・マンキーウィッツ。この種の言葉を集めていた人物として同コラムに登場し、「時代に取り残されないため、そして新しい語を退けるために、形容詞を背負うことになった名詞」と定義しています。マンキーウィッツ本人が最初に気づいた例は「natural grass(天然芝)」で、野球場に人工芝が入りはじめた時期だったと後年語っています。
新しいものは短い名前を持って現れ、元からあったほうが修飾語を背負います。しかも、その修飾語を付けるのは発明者ではなく、区別する必要が出た使う側です。したがってレトロニムは、そのものの性質ではなく既定が入れ替わった時期を示す記録として読めます。「対面」「紙の本」「有人レジ」も同じ形です。なおバックロニムは、既にある語へ後から展開形をこじつける別の現象で、こちらは古い側への改名ではありません。
補足:「レトロニム」自身は古い側へ付けられた名前ではないため、レトロニムには当たらない。1980年の初出およびマンキーウィッツの定義・証言は、Merriam-Webster の語源記述と Language Log(Ben Zimmer, 2014年10月24日)が引用する当該コラムに基づく。日本語の「固定電話」「白黒テレビ」がいつから使われたかは確認できていない。
RINGI — ツギノテ。FUN 編集部
稟議(りんぎ)とは、担当者がつくった案を、関係者や上位者へ順番に回して承認をもらっていく、日本の組織で発達した意思決定の仕組みです。会議で一度に決めるのではなく、書面(稟議書)に関係者が順に押印して、合意を少しずつ積み上げていきます。
一人の決定者がその場で「やる/やらない」を宣言するのではなく、案を紙にして関係者の間を回す。読んだ人が同意の印を押し、次の人へ渡す。全員の印がそろって、はじめて話が通ったことになります。会議の招集や日程調整を省ける一方、承認が一巡するまで時間がかかりやすく、「誰が最終的に決めたのか」があいまいになりやすい、という指摘もあります。
稟議書の確認欄は、多くの場合、地位の低い人から高い人へと横に並びます。つまり書類そのものが、組織の上下関係を一列に可視化した図になっている。ここに押印の作法が乗ると、単なる承認記録が「見られる場」に変わります。印を左に傾けて右隣の上司へ礼をするお辞儀ハンコのような慣習が生まれた背景の一つとして、この「並ぶ書面」の存在がしばしば挙げられます(起源は諸説あり)。
補足:稟議は日本的経営を語るときによく引かれる概念だが、運用の実態は組織ごとに幅がある。近年は電子稟議・ワークフローシステムへの置き換えが進んでいる。
SHABEKURI MANZAI — ツギノテ。FUN 編集部
しゃべくり漫才とは、衣装も小道具も使わず、途中で役に入ることもせず、二人の掛け合いだけで進める漫才の型のことです。ひとことで言えば、立ち話で笑わせる漫才です。
題材は日常の雑談や身の回りの出来事、時事などが中心。演者はセンターマイクの前から動かず、話の運びと言葉のずれだけで笑いを作ります。創始は昭和初期の横山エンタツ・花菱アチャコとされ、1980年代の漫才ブーム以降は漫才の正統派と位置づけられることが多い型です。
もう一方の型がコント漫才です。「お前、コンビニの店員やって」のように会話の途中から役柄に入り、場面を演じます(役に入る合図を業界の符牒で「コントイン」と呼ぶとされます)。衣装や効果音を使わず立ち位置も変えないという点でコントそのものとは区別されますが、センターマイクから離れることが多いため、しゃべくり漫才を王道とする見方からは邪道と評されることもあります。
とはいえ定義は厳密ではありません。ナイツの塙宣之は、きっちり定義するのは難しいとしたうえで「あえて言うならば、しゃべくり漫才とは日常会話だと思います」と述べています。一本のネタの中に両方の要素が混ざることも珍しくなく、どちらの型かは見る側の解釈に委ねられる場面があります。
補足:型の分類名は業界と評論の慣用で、公的な規格のような定めはない。M-1グランプリの参加規定にも型の指定はなく、審査基準は「とにかくおもしろい漫才」とされている(M-1グランプリ公式サイト「エントリー情報」)。出典:Wikipedia「漫才」ほか漫才の型に関する解説、塙宣之の発言を引く記述。
SKEUOMORPHISM — ツギノテ。FUN 編集部
スキューモーフィズムとは、現実の物の見た目や質感、構造をデジタルのデザインに写し取る手法です。フロッピーディスク=保存、ゴミ箱=削除、紙の封筒=メールのように、利用者が既に知っている実物にたとえることで、初めての操作でも意味を推測できるようにします。
画面上のアイコンやボタンという発想がまだ新しかった時代、人は「この絵を押すと何が起きるのか」を手がかりなしに理解できませんでした。そこで、机の上にある見慣れた物をそのまま絵にする。ゴミ箱に捨てれば消える、フォルダに入れればまとまる——現実での経験がそのまま操作の意味を教えてくれる、という設計です。初めての道具を、慣れた比喩でくるむ方便でした。
面白いのは、たとえに使った実物のほうが先に姿を消す場合があること。フロッピーディスクは市場から消えましたが、「保存」の絵は今も四角い円盤のままです。この段階になると、絵は実物に「似せたもの」ではなく、意味だけを指し示す「参照する記号」に役割が変わります。受話器の形をした通話ボタン、紙の封筒のメールアイコンなども同じ経路をたどった例です。
補足:スキューモーフィズムは、写実的な質感表現(影・光沢など)を指して使われる場合と、実物への比喩全般を指す場合がある。文脈により範囲が異なる点に留意。
STATISTICAL POWER — ツギノテ。FUN 編集部
検出力とは、探している差が本当にあるとき、それを「ある」と見つけられる確率のことです。目の悪い人が小さな文字を見落とすのと同じで、調べ方が弱ければ、実在する差も素通りしてしまいます。その弱さ・強さを数字にしたものです。
実験や調査の計画を立てるとき、検出力は必要な回数を逆算するための入口として使われます。決めるのは3つ。①どれくらいの差を見つけたいか ②間違って「差がある」と言ってしまう確率をどこまで許すか(有意水準。慣例は5%) ③本当に差があるとき見つけられる確率をどこまで上げたいか(検出力。慣例は80%か90%)。この3つが決まると、必要な標本の大きさが出ます。
肝は、見つけたい差が小さくなるほど必要な回数が急に増えることです。サイコロを例にすると分かりやすくなります。ある面が出る確率が公平な16.67%ではなく16.88%だった、という程度の偏りを、有意水準5%・検出力90%で検出するには約27万投必要になります。同じサイコロで「5か6が出る確率が33.33%ではなく33.77%」という、ひとまわり大きい差なら約10万投です。差が半分になると、回数はおおむね4倍に膨らみます。
ここから、ひとつ実用的な読み方が出てきます。回数の足りない調べ方で差が出なかったとき、それは差がないことの証明にはなりません。単に見つけられる目を持っていなかった可能性が残ります。「何回やったのか」を見ずに「効果は確認されなかった」だけを受け取ると、判断を誤ります。逆に、十分な検出力を用意したうえで差が出なかったのなら、そこには意味が出てきます。
補足:有意水準5%・検出力90%という組み合わせは慣例であり、法則ではない。上記のサイコロの必要投数は、Zacariah Labby「Weldon's dice, Automated」(CHANCE 22(4), 2009)に示された値(270,939投/100,073投)で、片側5%・検出力90%の条件による。検出力を上げる手段は回数を増やすことだけではなく、測り方の精度を上げる、ばらつきの小さい条件で測るといった方法もある。
SUPPORT POLYGON — ツギノテ。FUN 編集部
支持多角形とは、床に接しているすべての点を囲んでできる、いちばん外側の多角形のことです。重心がこの内側にあるあいだは倒れず、外へ出た瞬間に倒れます。
三脚なら三角形、4本脚のテーブルなら四角形、オフィスチェアなら五角形。接している点そのものではなく、点を結んだ「面」で考えるのがこの言葉の要点です。片足立ちが不安定なのは、支持多角形が足の裏1枚ぶんしかないからで、杖を1本つくと途端に楽になるのは、点が増えて面が広がるからにほかなりません。二足歩行ロボットの制御でも、この多角形の中に重心の投影を収め続けられるかどうかが基本の指標になります。
支点が正n角形に並んでいるとき、多角形の余裕は方向によって違います。脚が張り出している向きは脚の長さいっぱいまで余裕がありますが、脚と脚のあいだ(辺の中点の向き)はそれより短い。中心から辺の中点までの距離は、脚の長さのcos(π/n)倍です。3本なら0.500倍、4本で0.707倍、5本で0.809倍、6本で0.866倍。人が体を預ける向きは選べないので、安定性はこの「いちばん短い向き」で考えることになります。
本数を増やせば多角形は円に近づきますが、伸びしろは急速にやせます。4本から5本にすると約14%増えるのに、5本から6本では約7%、6本から7本では約4%。10本にしても0.951倍で、1.000倍には永久に届きません。届いたときはもう脚ではなく円盤です。
補足:ここでの計算は支点が正n角形に等間隔で並び、脚の長さがすべて等しいという単純化のうえに成り立っている。実際の椅子はキャスターが首を振るため接地点の位置が動き、支持多角形の形も座るたびに少し変わる。日本のJIS規格(S 1206)はこの多角形を直接測るのではなく、隣り合った二つの支点をストッパで止めて荷重を加え、転倒の有無を記録する方式をとっている。
TIME PERFORMANCE — ツギノテ。FUN 編集部
タイパとは「タイムパフォーマンス」の略で、かけた時間に対する効果、つまり時間対効果を表す言葉です。「コスパ(コストパフォーマンス)」にならって作られた和製英語です。
本来はビジネスの場で時間と能率の関係を語る言葉でしたが、動画配信サービスの普及にともない「最小の労力で最大の成果を得たい」という若い世代の志向を表す言葉としても使われるようになりました。倍速視聴や10秒飛ばしを説明するときに、よく引き合いに出されます。
ウィキペディア日本語版によれば、この語を考案したのはマーケティングアナリストの原田曜平氏で、2015年のこととされます。2019年2月15日号のビジネス情報誌『ダイヤモンド・チェーンストア』にもすでに登場していました。世間で「新語」として広く知られるようになったのは、動画の倍速視聴を論じた2022年4月刊行の稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)がきっかけで、同じ年の秋、三省堂「辞書を編む人が選ぶ今年の新語2022」の大賞に選ばれています。つまり、新語として脚光を浴びる7年前から、この言葉自体は存在していたことになります。
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)には、商標登録第5797284号・商願2015-031220として登録されているとウィキペディアは記しています。出願の年は、原田氏による考案の年と重なります。どの区分の商品・サービスに対する登録か、権利者が誰かといった詳しい範囲までは確認できていません。
補足:「タムパ」という略し方も一時期併存していましたが、実際の用例では「タイパ」が圧倒的に多く使われています。後発の語として「スペパ(スペースパフォーマンス)」もあり、複数の企業コラムが、コスパ・タイパに続く言葉として同様の説明をしています。
THREE-DIMENSIONAL TRADEMARK — ツギノテ。FUN 編集部
立体商標とは、商品そのものや包装・容器の「かたち」を、どこの誰が出しているかを示す目印として保護する商標です。
商標というと社名やロゴマークを思い浮かべますが、守れるのは平面の文字や図形だけではありません。くびれた飲料びん、特徴的な菓子の形、店頭に立つ人形。名前を見なくても、形だけで「あの会社のあれだ」と分かるものがあります。この形そのものに与えられる権利が立体商標です。
日本では平成8年(1996年)の商標法改正で「商標」の定義に立体的形状が書き加えられ、1997年(平成9年)4月1日から制度が始まりました。それ以前、形の保護はおもに意匠(デザイン)の領域とされていました。両者の大きな違いは寿命で、意匠権には存続期間の上限がある一方、商標権は更新を続けるかぎり切れません。長く使い続けている形ほど、商標として守る意味が出てきます。
ただし、形なら何でも登録できるわけではありません。その形が商品の機能を果たすために必要なだけのもの、つまり誰が作ってもそうなる形は、一社に独占させると競争を妨げるため認められにくい。反対に、長年その形で売られてきた結果、形を見ただけで出所が分かると評価されれば、登録に近づきます。争点になるのはたいてい「その形は機能なのか、目印なのか」という一点です。
補足:食パンの袋を留めるバッグ・クロージャーも立体商標として登録されていると、製造元のクイック・ロック・ジャパンは説明しています。出典:日本語版ウィキペディア「立体商標」「バッグ・クロージャー」/特許庁および特許事務所による制度解説(平成8年改正・1997年4月1日施行、識別力と機能性の扱い)。個別の商標が現在も有効かどうかは、特許情報プラットフォームなどで確認できます。
TRIANGLE OF U — ツギノテ。FUN 編集部
Uの三角形とは、アブラナ属(Brassica)の主要な6つの種の関係を、1枚の三角形で表した図のことです。頂点に3つ、辺の上に3つ。頂点どうしが2つずつ組み合わさると辺の種になる、という関係を示します。
三角形の頂点に置かれるのは、基本になる3つの種です。B. rapa(記号AA・2n=20)はハクサイ、カブ、コマツナ、ミズナ、チンゲンサイなどを含む種。B. nigra(BB・2n=16)はクロガラシ。B. oleracea(CC・2n=18)はキャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、ケール、コールラビ、芽キャベツを含む種です。
辺の上に置かれるのは、その2つが合わさってできた種です。B. juncea(AABB・2n=36)はカラシナやタカナ、ザーサイ。B. napus(AACC・2n=38)はセイヨウアブラナ(ナタネ)やルタバガ。B. carinata(BBCC・2n=34)はエチオピアガラシ。染色体の数も、20+16=36、20+18=38、16+18=34ときれいに合います。
この図が示されたのは、1935年に Japanese Journal of Botany 第7巻(389〜452ページ)に載った論文です。著者名の表記は Nagaharu U。禹長春(う・ながはる/ウ・ジャンチュン、1898〜1959)で、東京に生まれ、日本で学び、農林省の農事試験場でアブラナ属の研究を進めた研究者です。1950年に韓国へ渡り、現地では育種の父として知られています。九州大学が禹長春コレクションを公開しています。
論文の題は「Genome analysis in Brassica with special reference to the experimental formation of B. napus and peculiar mode of fertilization」。図を描いただけでなく、B. rapa と B. oleracea を実際に掛け合わせて B. napus を作ってみせたことが題に入っています。予想を立て、実物で確かめる、という順番でした。
90年前の図ですが、アブラナ属の育種・遺伝の研究では現在も基本の枠組みとして使われています。2022年に The Plant Cell へ載った B. carinata のゲノム解析論文は、題に「the final piece of the Triangle of U」(Uの三角形の最後の1ピース)と入れています。
補足:ダイコンは同じアブラナ科だが属が異なり(Raphanus sativus・2n=18)、この三角形には入らない。各種に含まれる品目や変種名(var.)の扱いは資料により差がある。
YAKUMONO — ツギノテ。FUN 編集部
約物(やくもの)とは、句読点・括弧・中黒・ダッシュのように、文字ではないけれど文章を組むために使う記号の総称です。印刷や組版の現場で使われてきた言い方です。
読点「、」句点「。」かぎ括弧「」丸括弧()中黒「・」三点リーダ「…」疑問符「?」感嘆符「!」ダッシュ、いずれも約物です。文字は言葉そのものを表しますが、約物は言葉の切れ目や関係を表します。声で読み上げると多くが消えるのに、消すと意味が変わるという妙な位置にあります。
日本語の活字は原則として正方形の枠に収まる設計で、約物も同じ全角の枠を持ちます。そのため「」や。が連続すると、記号のまわりの空きが並んで目立ちます。組版ではこの空きを詰めて組むのが普通で、逆に詰めないまま印字すると、文の間に不自然な穴が空いたように見えます。行頭に句点や閉じ括弧を置かない、行末に開き括弧を置かないという扱いは禁則処理と呼ばれ、日本工業規格「日本語文書の組版方法」(JIS X 4051)が方法を定めています。
やや込み入った事情として、同じ記号に欧文用の形と和文用の形が別に用意されている場合があります。ダッシュがその例で、Adobe-Japan1というフォントの規格では、欧文約物形状のダッシュがU+2014 EM DASH、和文約物形状のダッシュがU+2015 HORIZONTAL BARに対応しています。見た目のよく似た横棒が、実装によって別の文字コードに割り当てられるわけです。この割り当ての揺れが、環境をまたいだときの文字化けの原因になります。幽霊文字のように出所の分からない字が規格に入った話とは別で、こちらは出所のはっきりした記号が二重に登録された結果です。
補足:約物という語そのものの由来については、確かな説明を確認できていない。英語では punctuation(句読法)と、記号の集合としての marks を場面で使い分ける。なお欧文の em ダッシュ・en ダッシュの名前は活字の m と n の幅に由来し、記号の意味ではなく寸法から付いた呼び名である。